一昔前まで身内の者が死亡すると喪主の自宅では近親者や隣近所の人たちが助け合って葬儀を執り行っていました。昨今のように葬儀一式を事業とする企業がなかった時代には多くの助けが必要だったわけです。従って、周囲の方々に通夜と告別式の日程を知らせて助けの手を求める必要性がありました。
同時に、喪主の自宅では暫くの間、故人の死を悼み、喪に服す生活を送るため自宅の出入り口に忌中と表示した貼り紙を出しました。この貼り紙に書かれた日程を見て周囲の人は各々、通夜や告別式の手伝いに馳せ参じたり、葬儀に参列するのが習わしにもなっていました。
身内の者が亡くなると喪主や近親者は通夜と告別式の準備に大忙しになり、周囲の人たちに知らせる手段の少なかった時代には玄関や門の貼り紙で知らせることが便利だったわけです。なお、この貼り紙は人の死を穢れと考える大昔からの死生観を表していると捉える見方もあります。従って、周囲の人に穢れを及ぼすことを避けるために喪主や近親者が一定期間、自宅に籠る意味も込められているようです。亡くなってから49日後の忌明け法要が終わると玄関や門に貼った忌中の表示を取り外す習わしでした。しかしながら、次第にその習わしが崩れ去り、告別式終了とともに外すようになりました。また、電話等、簡単に周囲に連絡する方法がいくつも出てきたり、都市部などで隣近所とのつながりが殆どなくなってくるとこの忌中の貼り紙を玄関や門に見かけることもなくなってしまったわけです。